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老人ホーム

老人ホームで帰宅願望が生じる理由と家族ができる5つの対処方法

  • 夫が入居した施設で『妻が家で待っているから帰る』と言っているらしい。面会しない方が良いのだろうか?
  • 老人ホームに入居した親が面会するたびに家に帰りたいと言ってくる。どのような声掛けをすれば良いのだろうか?

などと不安に思っていませんか。

これらは認知症の方に見られる症状で帰宅願望と呼ばれています。「家に帰りたい」と頻繁に訴えたり、実際にその場所から外に出て行こうとすることを言います。

ご家族からすると「施設に入居させたことが間違っていたのかな」「申し訳ないことをしているのでは」と不安に感じ、どのように対処すれば良いのか困ってしまうでしょう。
帰りたいという気持ちを理解してあげて、その理由に応じて適切に対処してあげることがポイントです。

そこで、この記事では

  • 帰宅願望の意味
  • 帰宅願望が生じる理由
  • ご家族ができる対処方法

などについて、解説していきます。

この記事を読んで、帰宅願望が生じる理由を知り、適切な対処方法を知っておきましょう。ぜひ、参考にしてみてください。

※当該記事に関する個別のお問い合わせは受け付けておりません。また、記事中の触れられている法的見解についての責任は一切負いかねます。所管の自治体窓口または弁護士などの専門家にご相談ください。「そよ風」のサービスに関してのお問い合わせや不明点は、お問い合わせフォームより受け付けております。

1.帰宅願望とは認知症でよく見られる症状の一つ

第1章

帰宅願望は認知症の方の症状の一つとされています。帰りたいと訴える場所は施設に入居する前の家を指すだけではなく、生まれ育った故郷であったり、仲の良い家族や兄弟のことを指していることもあります。

つまり、自分を受け入れてくれ落ち着く場所に行きたいという感情です 。
認知症の方は新しい環境に馴染むのが苦手とされているため、特に最初のうちは強くこのような感情が出ることがあります。

ただし、いまいる環境がまだ慣れていない場所であったり、顔見知りが誰もいない環境であったりすると、落ち着かず自分が安心できるところに早く帰りたいというのは誰もが抱く感情ではないでしょうか。そのため、その感情が生じることは全く悪いことではありません。
認知症の方だからといって特殊なのではなく、誰にでも起こり得る気持ちといえるでしょう。

まずはその気持ちを共感・理解した上で、帰りたいと言っている理由を知ることが大切です。

2.帰宅願望が生じる主な要因5つ

第2章

では帰宅願望が生じる理由はどのようなものがあるのでしょうか。理由は人それぞれですが、共通することとして現状に不安やストレスを感じていることから生じると言えるでしょう。

よく見られる要因を見ていきましょう。

2-1 時間の感覚や自分が置かれている状況が分からない

認知症の初期症状の一つに「見当識障害」というものがあります。自分の置かれている状況、季節や時間、場所、人を正確に認識できなくなることをいいます。

例えば

  • なぜ自分が老人ホームにいるのか分からず、「妻が待っているから家に帰りたい」と言う
  • 退職しているが「仕事に行かなければ」と会社に行こうとする
  • 過去に犬を飼っていた方が「犬が待っているから散歩に行かないと」と言う

といったものです。

自分の現在の状況が自分自身で把握できていないため不安を感じて、安心できる場所に帰りたいという感情が生まれるのではないかと考えられます。

2-2 夕暮れ症候群

夕暮れ症候群というものもあります。薄暗くなり始める夕方の時間帯が帰宅願望の症状が出やすいため、このように言われています。

夕方になると学校や職場から家族が帰宅したり、夕食作りを始めたりと忙しい時間帯です。

また、施設では送迎の時間などで人の出入りが激しくなり慌ただしくなるため、周囲の忙しない状況にそわそわとして落ち着かず、自分も帰らなければと身支度をして出て行こうとすることがあります。

前述の見当識障害の症状もあいまって、子供の夕食作りをしていた時期に感覚が戻ってしまい「夕食を作らないと」という長年の生活習慣が染みついていることにより、帰りたいという感情が生まれることもあります。

夕方になり、帰宅ラッシュや子供たちが家に帰る姿を見ると、自分も家に帰ろうという気持ちが湧くことは、私たちにも想像のつく感情ではないでしょうか。

2-3 環境の変化に対応できない

単純に慣れ親しんだ自宅から施設に生活拠点が変わったという、急な環境の変化に対応できていないことも考えられます。

自分の部屋が快適に過ごせる環境でなかったり、職員の方や別の入居者の方とコミュニケーションがあまりとれていないと居心地が悪く感じてしまい、自分の居場所がある家に帰りたいという感情が生まれてきます。

程度の違いはあれ、引越しをした際に新しい街や新しい家にすぐに慣れなかったり、転校して周りに知らない友達ばかりでそわそわし落ち着かない経験をしたことがある方は、このような気持ちが分かるのではないでしょうか。それと同じで、認知症の方も環境の変化に対応できないことがストレスに感じてしまうことがあります。

2-4 介護されている自分を認めたくない

介護されている自分を認めたくないという感情を持っていることもあります。

  • 着替えや食事など、自分でできていたことがうまくできなくなった
  • 物忘れが多くなり周囲の人に迷惑をかけてしまうことがでてきた
  • 自宅では父親や母親、会社では部長という立場だったのに、ここでは介護されている

というようなことがあると、なかなか現状が呑み込めず、老いた自分を拒否したいと感じる方もいるでしょう。

もしかしたらご家族も、自分の両親や配偶者の老いをまだ受け入れられていないこともあるかもしれません。

本人も同じ気持ちで、まだ自分は大丈夫だから、自分がいるべきところに帰らなければ、という気持ちが生まれることがあります。

2-5 施設が合っていない

単純に施設が合っていないことも考えられます。本人と施設見学に行き、入居前に説明を聞いていない場合、施設自体がその方の志向に合っていないこともあります。施設を決める際は、ご家族と本人両方が納得した上で最終決定を行うようにしましょう。

3.家族ができる適切な対処方法・気を付けたいこと5つ

第3章

前章では帰宅願望が生じる様々な要因を見てきました。ここではその要因に対してご家族ができることを見ていきましょう。

3-1 否定せず気持ちを受け止める

前章でもお伝えしましたが、まずは介護される方の不安に感じる要因を探り、その気持ちに向き合っていきましょう。決して否定することはないようにしましょう。

例えば「子供たちが帰ってくるから夕食の支度をしないと」と言われたことに対して、「お母さんの家はここだからもう帰らないよ」というようなことを言って気持ちを汲み取らず、真正面から否定することはやめましょう。

認知症の方は否定されることで混乱し、より不安が増してしまうので逆効果です。

否定せずに、「家に帰りたいんだね」と共感し話を聞いて、不安を取り除いてあげましょう。

3-2 他に興味をもっていけるようにする

馴染みがない周囲の状況に落ち着かないという方には、時間を持て余すことがないように他に興味をもっていけるように会話をすることも良いでしょう。

本人の趣味の話を広げたり、熱中して取り組める好きなことを施設でも勧めたりするなど、他のことに集中できるようもっていきましょう。

3-3 自宅のような安心できる環境をつくる

急な環境変化に対応できていない場合は、自宅のように安心できる環境を用意してあげましょう。
例えば

  • 自宅で過ごしていた際に飾っていた好きな絵画を飾る
  • 使用していた文具、時計、家具など馴染みのあるものを置く
  • 家族の写真を飾って安心できるようにする
  • お気に入りのアロマを焚いてリラックスできるようにする

などです。

本人の馴染み深いものを置き環境を整えてあげれば、ご自宅のように心が落ち着ける空間になるでしょう。ただし、施設によっては私物の持ち込みにルールがあるところもありますので、事前に確認しましょう。

3-4 居場所、役割をつくってあげる

施設にまだ馴染めていない場合は、本人の居場所や役割をつくれるように促してあげましょう。

自宅では父親や母親として、会社では部長として、などそれぞれご自身に役割があったのではないでしょうか。施設でも同じように役割があると「ここにいなければ」、「自分がやらなければ」という意識にもっていけるでしょう。

例えば

  • 手芸が得意なので他の入居者に手芸を教えてあげる
  • 趣味は旅行だったのでお勧めの旅行先を職員の方に教えてあげ
  • お喋りが好きなので他の入居者と会話が楽しめるようにする

ご家族の方ならば趣味や得意なことなど、本人が自信を持っているものをよく分かっているでしょう。面会の際に引き出してあげて、職員の方にも協力してもらいましょう。

3-5 退去要件は確認しておこう

なかなか帰宅願望が解消されないと焦ってしまい、施設から退去を促されるのでは、と心配になる方もいるでしょう。

帰宅願望があるだけでは施設から退去を求められることはありませんが、帰宅願望により他の入居者や職員とのトラブルや迷惑となる行為が頻繁に生じた場合は、退去勧告が出されてしまう可能性があります。
退去要件は施設によって異なりますので、入居契約書や重要事項説明書は必ず確認しておきましょう。

とはいっても、退去はできる限り避けたいですよね。焦って対応しようとするとその気持ちが相手に伝わり、余計に時間が掛かってしまいます。本人の話を聞くことはもちろん、施設の職員の方やケアマネジャーにも相談しながら本人に合った対処をしていきましょう。

以上、家族ができる帰宅願望への対処方法、気を付けたいことをお伝えしました。一番近くにいたよく理解しているご家族が一緒に解決していきましょう。

4.面会をしてまた来ることを伝えてあげましょう

第4章

帰宅願望を生じさせてしまうのならば、これ以上面会しない方が良いのかなと思う方もいるかもしれません。
しかし前述のとおり、一番よく分かってあげられるのはご家族です。面会はご家族と顔を合わせて話をすることで気持ちが落ち着き、気分転換にもなります。

例えば

  • 楽しい話題を振って、たくさん話を聞いてあげる
  • お気に入りの食べ物や物を持っていく
  • 施設内を一緒に散歩してみる
  • 外出可能であれば一緒に買い物に行く
  • 外出可能であればレストランに食事に行く

などがあります。面会後は「また来るね」と伝えれば、自分の新しい家はここで、家族がまた遊びにきてくれると思うことができるでしょう。

ご家族も面会のたびに「家に帰りたい」と言われると預けていることが間違っているのかなと気持ちがもたなくなることもありますが、帰宅願望に対してイライラしたり気持ちを無視するような対応をしてしまうと、より帰宅願望を強めてしまったりお互いにとって、いい結果にはなりません。
気持ちに余裕があるときに 面会の時間を取って、話を聞いてあげましょう。

5.さいごに

さいごに

いかがでしたでしょうか。

帰宅願望はご自身にあてはめてみても相手の気持ちは理解できるのではないでしょうか。
不安な気持ちは人それぞれです。その気持ちにきちんと向き合い理解してあげて、ストレスを取り除いていけるように上手に声掛けしていきましょう。

本人に施設での生活を楽しんでもらい、大切なご家族を安心して預けることができるといいですね。

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この記事の監修者

株式会社SOYOKAZE
事業統括本部部長(拠点サポート部署)
渡邉 祐貴
介護福祉士・介護支援専門員


介護現場に10年従事し管理者、生活相談員、計画作成担当者など様々な役務をデイサービス、ショートステイ、グループホームで経験。介護福祉士、介護支援専門員等の資格を取得し、介護の専門性を磨く。
その後、現在の役職となり介護業界での経験は約20年。
現場の感覚を忘れずに、課題や問題点を抽出し、その対策に日々取り組んでいる。

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